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定量限界と効率的な測定 | 産地判別検査の同位体研究所

定量限界と効率的な測定

ゲルマニウム半導体検出器による定量下限と効率的な測定

核種測定における定量限界

ゲルマニウム半導体検出器による核種(放射性物質の種類)の定量測定においては、測定条件により定量下限値は変動します。 測定は、周囲の環境からの放射線を遮るため厚さ10cmの鉛遮蔽容器内で行われますが、定量下限値については、検体に含まれる放射性物質の種類や量、検出器の相対効率(ゲルマニウム半導体検出器の検出の効率:高い程、良好な検出となる)、測定対象の核種(例えばセシウム134や137と近接したエネルギーを持つ核種の存在)などの要因により測定毎に変動します。 また測定においては、検体に含まれる核種(放射性物質の種類)を特定する「定性」と、核種別の放射能量を測定する「定量」が行われます。定性での測定の場合、それぞれの核種は、特有のエネルギーを発しますので、下図のように個々の核種がピークとして検出されます。 この検出されたピークを、核種別のデータに基づいて解析し、核種を特定します。次に、特定の核種を定量する場合、測定容器内に何もない状態で測定を行い「バックグラウンド」と呼ばれる「何もない状態」の測定データと、あらかじめγ線量が明確な「標準」となる標準線源を測定したデータをもとに、検体を測定して得られたエネルギーパルスの面積を解析し、定量(Bq/kg)を行います。下図に、実際の測定されたスペクトルを示します。

定量下限を左右する要因

測定においては、時間の経過と共に、検出されるパルス(各スペクトルのピーク)は、積算されますので、放射性物質の含有が微量であっても測定時間を長く取ることで検出が可能となります。これが一般的に、ゲルマニウム半導体検出器による測定では、測定時間を長くとれば、検出限界がより低くなる言われるものです。 しかし、これは検体に含まれる放射性物質の種類が少なく、また放出される放射線量も強くない場合であり、どのような検体でも測定時間を延ばせば定量下限値が小さくなるというものではありません。例としては、福島一帯の土壌の多くは、原子力発電所事故により多くの核種を含み、かつ放射線量も高めである為、長時間測定を行ってもさまざまな核種の放出する放射線による「ノイズ」により測定容器内の「バックグラウンド」が、高くなってしまいます。 ちょうど、郊外で夜空の星を観測する場合と、都心部の光にあふれた場所で観測するのでは、同じ時間・場所でも、郊外で観測する方が、わずかな星の光も観測する事ができるという事に似ています。測定容器内で、強い放射線を出す核種が多数存在したり、測定器の設置場所自体が、周辺より放射線を受ける場所であったり、またはセシウム134や137のエネルギーと近い核種が存在するほど、定量する事はより困難となり、定量下限値は高くなります。 逆に、放射性セシウムを測定する場合、セシウム以外の放射性物質がほとんど存在せず、装置周辺も良好な放射能遮蔽があれば、放射性セシウムは、より明瞭に検出され、測定時間が短くても、わずかな値まで測定が可能となります。 以下に例として土壌Aと土壌Bを示します。土壌Aは、Cs-137が720Bq/kg、土壌Bは、Cs-137が10,045 Bq/kg存在します。それぞれを同一条件(検体量・測定時間)で測定した場合、土壌Aでは、検出限界は、7Bq/kg、土壌Bは、720 Bq/kgとなります。このように検体中に多核種が存在する場合や、放射線量が強い場合には、微量の核種については、測定が困難となります。このような場合には、検体量、測定時間を調整します。 厚生労働省の定めた「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」では、周囲に放射性物質が少ない「平時」の状態での測定においては、2Lの容器〔マリネリ容器〕を用いて牛乳を測定した場合、1時間測定で定量限界は、0.8Bq/Lとあります。一方、緊急時(現在のような多様な放射性物質が存在する状態)であれば、同じ測定状態でも定量限界は、16Bq/Lとなり、20倍も高くなってしまいます。 この目安は、ゲルマニウム半導体検出器自体の検出能力(相対効率)を15%としているものなので、周辺の環境以外に、測定装置(検出器)が、より高い能力(例えば相対効率20%、25%など)を持つ装置であれば、定量限界は、改善されると思われます。 いずれにせよ、定量下限(限界)は、検体の種類や形状、装置の設置場所、検出器の能力(相対効率)、検体中の放射性物質の存在状態などにより変動する事に留意が必要です。
バックグラウンドが低い
バックグラウンドが高い

測定時間と定量下限

それでは実際の測定において、どのように定量下限を設定して測定を行うのでしょうか?同位体研究所においての測定においては、例えば水を2L容器で測定した場合、30分程度で定量下限値は、1Bq/L未満を示します。 装置の設置場所が周辺からの環境放射能が非常に低い場所でもあった為、測定容器内の「バックグラウンド」が非常に低く、かつ測定用のゲルマニウム半導体検出器も相対効率20%超なので、良好な検出下限値(限界)を示しています。短時間に、より低い定量限界での測定を意図するのであれば、検体量としても2L(2KG)を2L容器に充填して測定すれば、良好な定量限界を得る事ができます。 しかし、実際の測定の現場では、検査対象となる検体が重量当たりで高額となるものも少なくありません。茶葉や、牛肉や化成品などは、重量単価が高い為、2L又は2KGを検査に使用するとなると、大量の検体を検査にかかるコストは莫大なものとなります。 このため土壌や、米、肉などの測定には主にU8という約100ml程度の容量の小型容器を使用します。この容器を使用した場合、2Lの容器を使用する場合と比較して、放射線の検出効率が低下する為、より長時間の測定が必要となりますが、検体の輸送等も含めて扱いが容易となります。もちろん、飲料水の測定などの検体で、迅速性、低濃度での検出能力を確保する点から2L容器(マリネリ容器)を使用して測定するものもあります。 さらに微量の放射性セシウムの検出を行う場合には、5Lの水を濃縮して測定を行う場合もあります。 測定時間・検体量と定量下限の関係については、別ページにてさらに詳細に説明していますので、ご参照ください。

実際の測定時間と定量限界の変動(U8容器での測定)

実際に牛肉を例に、U8容器(内容量100g程度)を用いた測定における測定時間と定量限界の変動をまとめると次のようになります。
評価用の検体としては、それぞれ0ベクレル/kg、50Bq未満、100Bq未満、200Bq未満、200Bq超の放射性セシウムを含む牛肉検体を、ゲルマニウム半導体検出器(相対効率25%)で5,10,15分測定の場合の測定値と定量限界値の一覧です。(定量限界は、測定環境による核種の変動要因を踏まえて解析ソフトにて算出され測定結果と一緒に表示されます) これらの値を踏まえますと、おおよそ5分測定で50 Bq/kg以上、10分測定で20Bq/kg程度、15分測定で15 Bq/kg程度まで定量限界が下がる事を示しています。 例えば規制値が500 Bq/kgという場合(牛肉や茶、米などの場合)、5分測定を行えば、50Bq/kg以上の放射性セシウム含有があれば定量は可能となります。同様に10分測定を行えば概ね20 Bq/kg以上の定量が可能となります。 同位体研究所では、通常定量限界を10 Bq/kg以下となるよう測定時間を設定しており、標準では測定時間は、2,000秒(33分)と設定しています。この測定時間であれば概ね定量下限値は、5〜10 Bq/kg程度を達成できます。しかし、低濃度の放射能の検出を行う場合、測定時間はより長時間必要となります。また福島の一部の地域のように多種類の核種が存在する場合には、相当の測定時間をとっても定量限界を向上させる事は困難です。 このように測定時間を長くとるほど検出には有効ですが、一方で1検体当たりの測定時間が長くなり、検査可能な検体数が少なくなります。このため、ゲルマニウム半導体検出器の測定においては、標準的な測定時間と定量限界を踏まえて、実際の検体中の放射性物質の含有量や、核種の状態を踏まえて測定時間を適切に設定してゆく事が必要です。 (注意:2012年より厚生労働省の放射性セシウム新規制値に対応して、測定時間、検体量などが全面改定されました。詳細は、基準値と必要定量下限のページをご参照ください)

効率的な精密測定の実施

ゲルマニウム半導体検出器による精密測定は、核種毎の分解能力の高さを生かして、例えばCs-134とCs-137、天然放射性物質のカリウム40(K-40)の区別など、放射能測定においては、定性・定量の観点から最も有効な測定法と考えられます。しかし装置が高価な事もあり、1−2台のみの測定装置の場合には、再測定や長時間測定による精密測定を実施する事が優先となり、測定時間を短縮してのスクリーニング目的で使用する事には制約が生じます。 スクリーニング用途としては、核種別の分別の能力は低いものの検出感度が良好であり、かつ装置も安価であるヨウ化ナトリウム(NaI)シンチレーション検出器を用いたスペクトロメーターも多数使用されますが、米や茶、水・土壌の分析においては、将来的な放射性物質の残留を正確に把握する為にも、半減期の異なる放射性セシウム134(半減期2年)と137(半減期30年)の値を個別に正確に把握してゆく必要がある為、どうしてもゲルマニウム半導体検出器による測定体制の構築が必要となります。同位体研究所は、十分な測定体制を構築するために、ゲルマニウム半導体検出器を6台導入し、長時間測定(5時間以上)の精密検査用、標準的な2,000秒(約30分)測定用、そして10分程度の短時間測定による多検体測定用と用途を分けて運用しています。こうした測定体制により、多検体の測定が緊急に必要な場合でも、ゲルマニウム半導体検出器による測定を1時間に36検体処理する事が可能です。(10分測定)。 50Bq/kg程度の定量限界でスクリーニングを行う場合には、5分測定により最大72検体/時間という検査能力となります。一方、研究用途で必要な場合には、50,000秒(約14時間)という長時間測定の実施が可能です。 このようにゲルマニウム半導体検出器による測定体制では、適切な定量限界を設定した上で、多数の装置を同時運用する事で、高精度・迅速な精密測定体制が構築可能となります。 同位体研究所は、2012年1月より厚生労働省新規制値に対応し、ゲルマニウム半導体検出器による測定体系を全面改定し、基準値に基づく測定で必要な定量下限値を満たしながら、より経済性の高い測定を提供できるように検査内容を一新しました。今後も、測定体制の充実に努めます。