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うなぎ産地判別検査解説 | 産地判別検査の同位体研究所

うなぎ産地判別検査解説

国産養殖うなぎと輸入(台湾・中国産)うなぎ判別検査・・高精度の検査による産地の判別(08年データに加え09年データの適用を開始。毎年変動を反映します)

ここ数年の国産志向の拡大により、国産農畜産水産物の需要は増加しています。 しかしながら、国産と中国・台湾産等の産地を偽装した事件が後を絶ちません。 うなぎについては、昨年来、度重なる産地偽装事件が発生しています。 台湾産うなぎなどは、露天養殖での長年の歴史を背景に非常に高品質のうなぎとしても知られており、本来の品質評価が置き去りにされて、「もうかるから」「国産とした方が受けがいいから」というような安易な偽装により、かえって産地の評価を落としかねない状況です。 「蒲焼きにしてしまえば、中国産・台湾産と国産の違いはほとんどわからない」という事実は、逆に言えば中国・台湾産の品質面での向上があるという事です。 しかしながら、絶対的な価格差を背景に、国産表示の偽装は後を絶たないのが現状です。 このような偽装は、中長期では、消費者の表示への信頼に大きなダメージを与え、結果として国産も輸入ものも同時に打撃を受ける結果となりかねません。 同位体研究所は、生育環境の判別を可能とする安定同位体分析により、生のうなぎはもちろん、蒲焼き状態のうなぎについても、その産地(原産国)を判別する分析検査を開発しました。 また判別の基準となる標準データは、鰻の体内お安定同位体比について、季節変動や、年次変動がある場合の確認も必要です。 同位体研究所は、定期的なデータ更新を行っています。

うなぎ組織を構成する原子は、養殖池の水、餌に由来。 組織の原子(窒素、炭素、酸素)を分析し、原産国を判別

うなぎの産地の判別は、遺伝子分析や微量元素分析が検討されてきました。 しかし、遺伝子分析は、品種は判別できても、中国・台湾産のうなぎも日本向けは、国内と同じジャポニカ種である事から、遺伝子分析による産地判別は困難です。 また微量元素による産地判別も十分な可能性を持ちますが、蒲焼きのように加工品となった状態では困難です。 うなぎは、稚魚から成育する過程で、体の組織を形成する訳ですが、この際には、組織の形成に必要な、窒素、炭素、酸素原子は、生育時の餌、池の水から得ています。 つまり、うなぎの生育した環境の「指紋」が組織の分子中に残ります。中国、台湾、日本の養殖うなぎは、安定同位体比が異なり、うなぎ肉組織を分析することにより、その産地が判別できます。 組織を構成する分子中の窒素、炭素、酸素原子について、安定同位体比を分析している為、蒲焼きといった加工品でも分析検査が可能です。

産地が何故判別できるのか?・・多元素安定同位体比による判別

国産養殖うなぎの特徴1・・・高い窒素安定同位体比(2009年産国産養殖うなぎについて、一部に2008年と比較して大幅に低い窒素安定同位体比を有する国産うなぎがいます。 これらのうなぎの特徴解析を完了。 2008年産データの2009年用判別データの最適化を行いました)

室内養殖池
露天養殖池
うなぎ養殖においては、中国でも福建省より北で加温養殖池を使いますが、国内のハウス養殖池のような同位体分別は見られず、台湾産露天養殖よりは国産養殖うなぎに近い値を示しますが、やはり国産と比較して低い窒素安定同位体比を示します。 国産養殖においては、冬場の養殖はハウスにて行われます。 稚魚の成長を促進する為、ボイラーにより室温を高くし、また冬場の水温も維持する為、養殖池内の水は、循環されています。 この為、ハウス内の養殖池の窒素態は、循環に伴う同位体分別により窒素同位体比が高くなると考えられます。国産養殖うなぎの窒素同位対比は、野外露天養殖の台湾産、中国産うなぎと比較すると顕著に高い値を示します。 このような窒素安定同位体比の差異は、輸入(台湾・中国)と国産養殖うなぎを判別する上で、重要な要素です。 しかしながら、窒素安定同位体比だけでは、産地判別は不完全です。 研究の結果、中国産でハウス養殖後、露天養殖する形態の養殖方法では、国産養殖うなぎと同様の高い窒素安定同位対比を示すうなぎも存在します。 従って、判別には、多元素安定同位体比による判別が必要です。(国産養殖うなぎは、平均で16.8‰程度、輸入養殖うなぎは、14.3‰程度です。)

国産養殖うなぎの特徴2・・低い酸素安定同位体比

酸素安定同位体比は、うなぎの生育環境の水により変動します。 酸素安定同位体比は、地理的(水系)による地域差が大きい為、産地判別では非常に有効な判別指標です。 また生物が生育環境の水を成長の過程で水由来の酸素原子を組織に取り込む為、生育環境の水の安定同位体比差が生物にも受け継がれます。 うなぎは、淡水で養殖されており、その養殖には、河川、地下水などが仕様されます。 そして、この養殖池の水は、日本、中国、台湾で安定同位体比が異なります。 環境水の差異については、日本は、やはり野菜、果実でも見られたように酸素安定同位体比が低い傾向を示しています。 国産養殖うなぎは、中国、台湾産うなぎと比較した場合、酸素安定同位体比が低い事が特徴です。(国産養殖うなぎは、平均で8.0‰程度、輸入養殖うなぎは、11.9‰程度です。)

国産養殖うなぎの特徴3・・高い炭素安定同位体比

炭素安定同位体比についても、国産と輸入養殖うなぎでは、差異が示されます。 これは養殖時の餌の相違であると考えられます。国産養殖うなぎは、中国・台湾産よりも高い炭素安定同位体比を示します。(国産養殖うなぎは、平均でー16.9‰程度、輸入養殖うなぎは、ー19.3‰程度です。) (注意:上記の窒素、酸素、炭素安定同位体比の国産・輸入うなぎの平均値は、参考値です)

判別の方法・・窒素・酸素・炭素安定同位体比分析による判別(毎年のデータ更新)・・2009年産については、窒素安定同位体比の変動を確認、データ最適化完了

高い判別精度・・判別精度(判別的中率)は、93.2%

判別においては、窒素・酸素・炭素の安定同位体比の分析値を、判別基礎となる中国産・台湾産及び国産養殖うなぎの安定同位体比データベースを統計解析して得られた「判別式」を使って、「判別得点」を得ます。この判別得点により国産か、輸入(中国・台湾)かを判別します。 判別式とは、統計解析により国産養殖うなぎ安定同位体比値と、中国・台湾産うなぎ安定同位体比値を区別する為の計算式です。 窒素、酸素、炭素安定同位体値をこの判別式に入れて計算すると判別得点が得られます。 この値により、国産か輸入を判定します。(年次や季節変動を考慮し、判別用標準データは、毎年更新されます)
3次元での安定同位体比散布図(国産と輸入うなぎ
実際に、窒素、酸素、炭素の安定同位体比値が、産地判別にどの程度の重要性があるかは、この多変量解析においても示されます。 解析の結果、産地判別には、窒素安定同位体比、酸素安定同位体比は、産地判別には同程度の重要度を持ち、炭素安定同位体は、窒素・酸素安定同位体比よりは、判別への寄与は小さくなります。 左に示すのは、窒素・酸素・炭素安定同位体比の実際の分布を3Dグラフで示したものです。 国産・輸入うなぎについて100サンプル以上のデータの分布は、国産と輸入うなぎの安定同位体比がそれぞれ異なる群である事を示しています。赤色のプロットは輸入うなぎですが、中国産と台湾産についても、異なる群を示していますが、データが重なる為、台湾・中国産の判別精度は、低くなるため輸入うなぎとして一括して扱われています。 ここで、うなぎの産地判別で注意点があります。 うなぎ養殖においては、台湾、中国福建省以南では、露天養殖が主体です。 しかし、中国福建省より北では、日本と同じように冬場は、加温にて養殖します。 この為、福建省より北の日本と同じようなハウス養殖池の場合は、窒素安定同位体比が国産養殖うなぎと近似した値を示すものがあります。 当初、当社では、窒素・酸素安定同位体比の判別への重要性の高さから、この2元素での判別を実施しましたが、このような日本産と類似した窒素安定同位体比を示す中国産うなぎの場合、国産養殖うなぎと判別されるケースがあります。
このような国産に近似した窒素安定同位体比を示す中国産うなぎについて、さらに研究を進め、中国産うなぎの基礎データを拡充した結果、窒素安定同位体比は、国産に近似していても、酸素及び炭素安定同位体比には差異が認められ。 3元素(窒素、酸素、炭素)による判別により、このような中国産うなぎの判別も可能となりました。 現在(2009年データ更新時)、同位体研究所のうなぎ産地判別検査の、精度は、93.2%です。 非常に高い判別精度ですが、先に指摘したハウス養殖を行い日本と緯度も近い地域で養殖された中国産うなぎに、国産と近似した値を示すものもあります。 この為、判別式を用いて得られた値が、国産と輸入養殖うなぎのグループを分ける判別基準値付近の場合、判別精度が落ちる可能性があります。この為、実際の判別においては、判別得点が判別基準値付近の場合、別ロットの検査もしくは、素性の検証の実施の推奨を付記する事としています。(記載例: 得られた安定同位体比値よりこの検体は、国産(輸入)養殖うなぎと判別されるが、判別基準値に近い判別得点を示す為、判別精度が低下しおり、国産(輸入)の判別が困難である可能性がある。 国産と輸入グループの境界となるような値を示しており、確認の為、別ロットの確認検査を推奨する) 尚、このようなケースを示す輸入養殖うなぎは、全体の数%であり、大半の輸入養殖うなぎは、判別基準値と明瞭な差を示し、容易に判別されます。(判別得点の目安: 国産養殖うなぎは、平均で1.5程度、輸入養殖うなぎは、ー1.5程度。 判別基準点付近で判別得点の上下0.5程度については、上記注釈の対象としています。)

市販蒲焼きの分析事例

参考までに、最近偽装が問題となった蒲焼きを分析したものでは、判別得点は、ー2.9と明瞭な輸入養殖うなぎの値を示します。(窒素安定同位体比は、14.4‰、酸素安定同位体比は、16.8‰、炭素安定同位体比は、ー18.2‰と、窒素安定同位体比が低く、酸素安定同位体比が高く、炭素安定同位体比も高いという典型的な中国・台湾産養殖うなぎの特徴を示します。) 一方、愛知三河産や静岡産の蒲焼きは、大半が1.0以上となります。(国産養殖うなぎ平均では、窒素安定同位体比が16.6‰、 酸素安定同位体比が8.0‰、炭素安定同位体比が-16.9‰程度です。 さらに、このようにうなぎの安定同位体比を分析すれば、そのうなぎが、特定の養殖池で生産されたかどうか、容易に判定できます。 科学的に、実際に生産池で生産されたものかも、明瞭に判別できます) 仮にある検体を分析し、上記のように国産表示であるにもかかわらず輸入養殖うなぎと判別される場合、さらに確認検査を行うのはいくつかの方法があります。

別ロットで検査

別ロットで検査すれば、混合かどうか判断が可能となります。同一生産地からのうなぎであれば、分析値も同様のものとなります。 また3元素の組成は、類似したパターンを示します。

生産者の自社養殖かの判別

もしある養殖池で生産されたものと主張された場合、その池で生産されるうなぎの分析を行えば容易に確認できます。 同一の生産池で養殖されたものであれば、当然3元素の安定同位体比は、同様のものとなります。 このように、安定同位体比分析は、うなぎの生産履歴について、非常に精度の高い検証を提供します。

信頼できる国産養殖うなぎの基礎データ(2008年・2009年・2010年と毎年データ更新)

国産養殖うなぎの判別を行う上で、基盤となるのは、国産養殖うなぎの安定同位体比基礎データです。 このデータは判別の基礎となる為、素性の確実な検体より得られたものでなければなりません。 国産養殖うなぎの安定同位体比のデータにつては、国内産地の養鰻を運営されている方々の協力を得て、同位体研究所にて実際に養殖地に出向き、養殖池から検体となるうなぎを採取。 またハウス内養殖池、露天養殖池から水及び土についての採取を実施しています。 蒲焼き・白焼きについても、養殖うなぎが搬入され加工される施設にて採取を行い、国産養殖うなぎの判別の基礎となるデータにつては、実際に国産養殖であるものを確認した上で、判別用基礎検体としています。 実際の市販中国産、台湾産蒲焼きを対象とした実証試験判別では、判別的中率は、93%と極めて高精度に輸入うなぎを判別します。 また同位体研究所は、産地判別の為の基礎データの更新を継続して実施しています。 本うなぎ判別検査の開発を行った2008年データに加え、2009年、2010年標準データの追加を実施しています。 これらの新規標準データの更新は、毎年の産地判別において、より信頼性の高い判別検査を提供します。

蒲焼き・白焼きと生うなぎの分析

生うなぎとは別に、蒲焼き・白焼きの加工うなぎについて、安定同位体比が、加工により影響を受ける可能性についても検討を行いました。 窒素・炭素安定同位体比については、蒲焼きでも生でもその値は安定しています。 酸素安定同位体比については、蒲焼き状態では、生よりも酸素安定同位体比分析値が不安定となる傾向を示します。 この点については、蒲焼きの分析に際して、安定同位体比分析前の前処理を改善する事で、安定した安定同位体比を得る事が可能となりました。

うなぎ国産・輸入判別検査についてのQ&A

実際の検査結果で、「国産養殖うなぎと判別されない」とされた場合、その判別の意味と、どのような対象が適切でしょうか。 いくつかのケースについて、解説します。

うなぎ産地判別検査に関するQ&A