中国産野菜と国産野菜の判別・・里芋(生・冷凍)の判別
近年の中国産野菜の農薬基準超過や、混入事故を受けて、国産野菜の需要が急増しています。 しかし、国産野菜の供給力は急には増加できない事、またコスト的には依然として中国産などの輸入野菜と比較して割高な事から、国産野菜の「供給力不足」「価格」を背景として、国産野菜に中国産を混合したり、輸入野菜を国産と偽装する事例が摘発されるようになりました。
同位体研究所は、輸入野菜や野菜加工品と国産野菜・野菜加工品の産地判別検査の開発を進めていますが、安定同位体比を用いての産地判別の例として、里芋による国産・輸入(中国産)判別を示します。 里芋以外に、ごぼうなどの他の種類の野菜についてのデータベース構築を進めており、データベース及びその解析が完了次第、検査対象の品目を拡充してゆきます。
安定同位体比による国産と中国産野菜の判別
野菜の産地判別別の場合、炭素・酸素安定同位体比の重要性が示されています。 酸素安定同位体比は、産地の水系を反映するものとして、国産と中国産野菜の判別の指標として検討されました。 また生育環境による炭素安定同位体比の差異も指標として検討されました。 一方、窒素安定同位体比については、生育時の施肥による変動(どのような肥料をどのように与えるか)がある為、国産・中国産の判別においては、動物(うなぎなど)の判別と異なり、判別指標としては、適当ではないと判断されました。
水素安定同位体比も、生育地域の指標としては非常に重要なものと思われますが、水素安定同位体比は、酸素安定同位体比よりも、より狭い範囲でも変動が大きく、中国・国産という国別の産地判別においては、使用していません。
国産判別・・炭素・酸素安定同位体比による判別
炭素及び酸素安定同位体比による国産里芋の判別方法・・判別精度は、93%
里芋は、各種和総菜に広く使用されています。 中国と国産里芋は、見た目にはほとんど識別は困難です。 しかし、国産里芋と中国産里芋について、炭素と酸素の安定同位体比の分布を検討すると、国産と中国産里芋は異なる分布を示しています。
散布図(N=93、国産51,中国産42)に示されるように、炭素と酸素の安定同位体比が、中国産と国産では異なります。 このデータを判別分析による解析を行うと、あるサンプルについて、炭素・酸素安定同位体比値から、このサンプルが国産・中国産のどちらに属するか判別する事ができます。 炭素安定同位体比は、生育環境の厳しさを反映するものと言われており、一方、酸素安定同位体比は、生育環境の水系の安定同位体比の差異を示します。
このデータから得られた判別式による判別の精度は、93%となります。(注意:散布図にあるように、国産グループと中国産グループの境界部分では、国産・中国産の判別の精度が低下します。 この為、判別境界付近の分析値を示す場合、個体のばらつきを検証する為にも、別ロットでの検査が推奨されます)
基礎データの蓄積でのポイント
安定同位体比を用いた産地判別は、検体中の炭素や酸素などの安定同位体比を測定し、この測定値と、産地素性の明確な標準用のサンプルの蓄積データとの照合により行われます。 照合とは、標準データを統計的に多変量解析し、あるサンプルのデータが、どの群に属するかを判定する為の判別式を得ます。 この判別式に、分析値を入れて得られた判別得点というもので判別されます。 従って、判別精度を高める為には、分析検査精度はもちろん、標準となるデータの蓄積が必要となります。 同位体研究所は、各種農産物や水産畜産物について、自社にて標準となるサンプルの収集を継続して実施しており、各種判別検査の基礎データとして使用しています。 里芋を例にとると、里芋の個体別のデータのばらつきも考慮し、里芋について得られたロットから、最低でも3検体以上の個別検体を分析し、個体のばらつきの検証を行っています。 さらに今後、季節変動の検証も含めて、継続したデータ蓄積を行い、産地判別の精度向上を進めてゆきます。国産・輸入判別検査において、表示と異なる産地と判別された場合の対応
里芋の国産判別検査を例にとりますと、ある里芋検体の分析を依頼し、その結果、国産と表示されているにも関わらず、中国産と判別されたとします。 この場合の対応の留意点を下記します。
別ロットで検査 |
農産物のロット毎のばらつきも考慮し、別ロットでの確認検査の実施を推奨します。尚、国産と輸入との判別の為の、判別得点が判別境界付近の場合、別ロットでの検査を推奨します。 尚、判別に際して、この判別基準付近の場合、検査報告書に補足が追記されます
安定同位体比による産地判別検査は、高精度ですが、100%の精度ではありません。個体毎のばらつきや、再現性の確認の為にも別ロットでの確認が重要です。 また国産と輸入品が混合された場合などは、同一ロットでの値のばらつきを検証するなどの注意も必要です。 |
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さらに詳細な確認方法 |
安定同位体比分析により得られた値は、その農産物の生育環境の安定同位体比を反映します。 従って、別ロット以外に、同一産地や圃場からの検体を分析するとさらに詳細な検証が可能です。
国産に輸入品が混合された場合など、同一産地のロットのはずが大きな分析値のばらつきを示します。 このような場合、混合についても検討が必要になる場合があります。
同位体研究所は、判別検査の結果については、分析値、判別得点、判別結果に加えて、研究者による推奨コメントを付記しています。 これは、得られたデータが、どのような分布を示し、分析値を解釈する上での留意点を示すものです。 |
拡充する品目 |
同位体研究所は、里芋以外にも、各種農産物の標準データベースの構築や、産地判別の可能性研究を行っています。 また各種の品目の分析データをさらに解析し、地域毎の安定同位体比の値の傾向についても研究を行っています。 このように、広範囲の食品に関する安定同位体比研究により、より精度が高く、また効率的な産地判別技術の開発に注力しています。 |