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銘柄牛肉判別検査 | 産地判別検査の同位体研究所

銘柄牛肉判別検査

国内牛肉銘柄約230.この中から、松坂、近江、飛騨、前沢、米沢、常陸など有力銘柄22種類について、銘柄表示の真正を判別。

同位体研究所は、現在22銘柄についての判別が可能であり、松坂、前沢、飛騨、近江、米沢など有数な銘柄については、90%以上の高精度で判別が可能です。 本銘柄牛肉判別検査は、今後の開発により、より判別の精度を向上させるとともに、市場での実際の検査業務を通じて、内容の改善を継続してゆきます。

銘柄の構成による判別の難易度と、分類方法の検討。

日本の銘柄牛肉は、銘柄毎に異なる定義を有します。 例えば松坂牛と飛騨牛を例にとると以下のような定義の違いがあります。(主要な定義内容)
松坂牛
三重県の雲出川以南、宮川以北の地域(旧22市町村と旧松阪牛生産者の会会員)
生産区域での肥育期間が最長・最終(従来は、500日以上)
黒毛和牛未経産雌
飛騨牛
岐阜県内で14ヶ月以上飼育された黒毛和牛(約半数は、飛騨地方)
歩留まり等級A・Bで肉質等級3等級以上
前沢牛
岩手県奥州市前沢区にて飼育された黒毛和牛
生産者が1年以上肥育する事(最長・最終)
歩留まり等級A・B 肉質等級4以上
米沢牛
山形県置賜三市五町で生産、18ヶ月以上肥育
黒毛和種未経産雌又は去勢牛
肉質等級4以上
山形牛
山形県内で12ヶ月以上、最も長く育成・肥育された黒毛和牛
肉質等級4以上
但馬牛
兵庫県内で出生、但馬牛の血統の黒毛和牛
指定生産農家
28ヶ月以上、60ヶ月以下
歩留まり等級A・B
例えば米沢牛は、厳密には、山形牛の中に含まれます。 上記以外でも近江牛なども滋賀県内で生産されたもので、肥育期間に規定があります。 これらの分類以外にも、信州のように販売ルートにより異なる銘柄であるもの(信州牛、信州和牛)もあります。 国内約230の銘柄について、その銘柄を大まかに分類すると次のような特徴があります。
狭い地域・肥育法管理が厳格なもの
松坂、前沢、米沢、但馬等
同一県内
山形牛、岩手牛等(この県内には、さらに個別銘柄有り)
販売系統(JA系統、独立系統)
信州
上記のように分類した場合、いわゆる国内の有力銘柄は、飼育地域がより狭い地域、飼料に特徴を有するものが多い(稲わら中心等)、生産農家指定や管理の統一が進んでいる点が特徴です。 一方、山形牛、岩手牛のように、特定の県内で生産された和牛を総称するものもあります。 これらの銘柄の定義を踏まえて、銘柄牛肉の判別を進めています。

国内の銘柄牛肉を安定同位体比値を用いて分類

地域の相違、飼育方法の相違などの要件を基礎に、銘柄牛肉を分類分け。

銘柄牛肉の定義にありますように、有力銘柄ほど生産地域が限定され、飼料配合にも特徴を有する事が分かります。 まず銘柄牛肉の判別において、安定同位体比の果たす役割は次のようになります。
炭素安定同位体比
飼料の相違・・稲わら中心か、トウモロコシなどの配合飼料中心か、また飼料の管理(共通性)が反映される。
窒素安定同位体比
牛肉の窒素源が反映される・・飼料中のタンパク質の由来
酸素・水素安定同位体比
成長過程での飲料水が動物組織の構成原子となる為、地域の水の安定同位体比(酸素・水素)は、牛の組織の酸素・水素安定同位体比に反映される。
以上のように、飼料や飲料水から組織に取り込まれた安定同位体比が、それぞれの銘柄牛肉に地理的な履歴を残します。 有力銘柄ほど、飼料の管理が統一され、また稲わらや麦中心の飼料を与えているケースが多く、さらに狭い地域で生産されている事から、安定同位体比の銘柄別の特徴を形勢しやすいと考えられます。 一方、県単位の銘柄(岩手や山形など)であるほど、飼料がまちまちであったり、生産地域も県内でより広範囲に分散する事から、銘柄内での安定同位体比の散らばりは大きくなると考えられます。 販売ルートによる銘柄の違いの場合は、これらの銘柄をまとめて、地域的なグループと考える必要があります。 実際の分析検査の技術開発の過程では、
  1. 飼料の相違による安定同位体比の差異は認められるか。
  2. 酸素(水素)安定同位体比の相違が認められるか。
  3. 地域内での分析値のばらつきの程度はあるのか。
  4. 牛の安定同位体比の個体変動と、群としての銘柄間での値の差異の検討
  5. 季節的な変動はあるのか。
など、さまざまな要件についての検討が行われます。

有力銘柄ほど明瞭なグループを構成。 県単位での銘柄は、細分化した地域グループに分ける必要がある。

銘柄牛肉の地域分布
関東北部の銘柄牛肉の地域分布
1,000検体の銘柄牛肉分析の結果、松坂や前沢など有力銘柄ほど、安定同位体比データが安定しており、グループとしての特徴が明瞭である事が分かりました。 松坂地域を例にとれは、地域内のさまざまな飼育場所からの松阪牛の安定同位体比を解析しても統計的に有意な差はありません。 一方、飛騨牛の場合、同一銘柄の中で、飛騨地方とその他の地域では、安定同位体比値に差がある事が示されました。(飛騨牛は、50%が飛騨地方で、残りが岐阜県の他の地域で生産されます) 以上を踏まえ、まず国内の22銘柄について、統計解析を行い、安定同位体比(炭素、窒素、酸素)による分類を行った結果、2つのグループに分類される事が分かりました。 この中では、稲わらなどの粗飼料を中心として生育される松阪牛や、前沢牛、米沢牛、一方、地域と配合飼料の違いにより近江牛や常陸牛は、別のグループに分類されました。 そして、さらにそれぞれのグループ内で、統計解析の結果、松坂牛、前沢牛、米沢牛はそれぞれ異なるグループに分類されました。 これらの分類されたグループをもとに、それぞれの銘柄牛肉の安定同位体比を用いて多変量解析する事により、主要な銘柄を90%以上の高い精度で判別する事が可能となりました。
判別の流れは、表示の真正を照合したい牛肉の安定同位体比を分析します。 例えば松阪牛の場合、まずグループ1か2というように分析値からその検体牛肉が属する銘柄グループを判別します。 松坂牛の場合、グループ1であり、ここでグループ2と判別された場合、その牛肉は松阪牛ではないという事になります。 さらにグループ1に分類された後、再度グループ1内で、判別分析を行います。 この段階で松阪牛、前沢牛、米沢牛などは区分されます。 分析精度については、第一段階の判別で94.6%、第2段階の判別で92−3%となります。 ただし、この判別検査は、表示された牛肉の銘柄の検証を目的としています。 もし銘柄不明のものの銘柄判別を行う場合、国内すべての銘柄を網羅していませんので、十分な注意が必要であり、結果については、精度が低下する可能性があります。

銘柄牛肉判別の流れ

有力銘柄の特徴・・飼料と管理方法、水の相違を反映

松坂牛や前沢牛、米沢牛などは、飼料管理も進み、飼料の主体も稲わらなどの粗飼料が中心です。これらの飼料は、炭素安定同位体比が低く、さらに地元の稲わらが主体であれば、さらに地域の特徴が反映されます。 一方、トウモロコシは、C4植物といわれ稲わら等の粗飼料(C3植物中心)とは炭素安定同位体比が大きく異なります。 例えば稲わらであれば炭素安定同位体比は、概ね−25‰程度でしょう。一方、トウモロコシであれば炭素安定同位体比は、−12‰程度となります。 つまり、飼料の配合により銘柄牛肉は、炭素安定同位体比や窒素安定同位体比に特徴的な値を示します。 さらに、松坂、前沢等、限定された生産者・地域の場合、牛の安定同位体比の個体差がより小さくなります。 実際に、松坂や前沢牛など、その地域内の異なる場所で生産された牛の分析値は、差異がより小さくなります。 また牛の飲料水は、その地域により酸素・水素安定同位体比が異なる為、この水の安定同位体比の値が牛にも反映されます。 銘柄牛肉の判別と別に、同位体研究所は、全国の農業用水、米の安定同位体比データベースを構築しています。 このような補助データが、牛の飼料の安定同位体比や、牛の飲用水の安定同位体比データとして大きく貢献しています。
銘柄別の分布
(図は銘柄別の安定同位体比を元に銘柄牛肉の安定同位体比の分布を模式的に示したものです。)