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果汁産地判別検査解説 | 産地判別検査の同位体研究所

果汁産地判別検査解説

果汁の検査・・産地判別、水添加判別、異性化糖添加判別

安定同位体比を用いた果汁の検査としては、すでに欧州果汁ネクター協会が、100%果汁の自主規格基準を設けています。例えばリンゴジュースを例にとると炭素安定同位体比は、-27から-24‰(ただし、中国産には、これを上回るケース有り)、水分の酸素安定同位体比は、-6.5以上というように規定されています。この規格は、もし果汁(濃縮果汁)中に異性化糖(コーンシロップやサトウキビ由来糖)や水添加されている事を抑止する為です このように炭素安定同位体比を分析すれば異性化糖の混入の有無が、果汁中の水を分析すれば水の添加による希釈(ストレート果汁の検証)が検査できます。 さらに農産物の産地判別でも利用される炭素・酸素安定同位体比を用いれば果汁の原産国の判別が可能です。 ストレート果汁や果実そのものであれば、さらに詳細な産地の判別が可能となります。果汁の炭素・酸素安定同位体比に加えて、果汁の酸素・水素安定同位体比を分析する事により、生産地域が判別できます。 例えばリンゴを例にとると、リンゴが中国産・米国産・豪州産かどうかはもちろん、リンゴが、北海道産か、東北産か信州産かの判別も可能です。 みかんについても九州産、四国産、中国地方、和歌山、中部というように、主要な生産地域の判別も可能です(行政区域による県単位ではなく、生育水系による判別となります。ただし、すべての国産栽培地域を網羅しているものではありませんので、ご注意ください) このように安定同位体比を用いた分析は、多くの産地情報の判別を可能とします。

安定同位体比による異性化糖添加の判別

炭素安定同位体比
欧州果汁ネクター製造業者協会(AIJN)による100%果汁(オレンジ・リンゴ)の規格は、炭素安定同位体比が-27〜-24‰と定めています。 実際に、100%果汁に異性化糖(コーンシロップ・炭素安定同位体比は-10‰程度です)を添加して、果汁の炭素安定同位体比の変動を見ると次の図のようになります。 クリックで拡大 コーンシロップやサトウキビ由来の糖は、C4植物由来糖としてフルーツ(オレンジ、リンゴなど)のC3植物由来の糖とは炭素安定同位体比が大きく異なります。 従って、経済的利益を目的として異性化糖などを添加して純度を偽装する場合には、炭素安定同位体比分析により大まかな添加量を推定できます。 ただし、この分析法では、たとえば甜菜糖などのC3植物由来糖を使用した場合には、添加が検出できません。 さらに、AIJNが注釈に加えているように、中国産の果実においては、まれに-24‰を越えて高い炭素安定同位体比を示すもの(リンゴ果汁)が存在する事が判明しています。 このため、単純に炭素安定同位体比を測定し、かつ測定値が-24‰を下回ったとして「異性化糖混入」と判断する事は危険です。 実際のAIJN分析においては、このような特殊な値を示す場合には、糖の組成分析を行うなどの検証を実施して判断を行っています。 同位体研究所は、濃縮果汁やストレート果汁において、すでに数百件の分析検査実績を有しており、同時に、日本各地や世界各地のフルーツ・果汁についての同位体分析を通じて、データの蓄積を進めて参りました。その結果、中国の一部地域におては、実際に炭素安定同位体比が-23程度を示すものが存在する事を確認しました。さらにごくまれに-22‰の値を示すリンゴがある事を確認しました。 これらのデータを踏まえ、同位体研究所は、AIJNの規格を上回る果汁が存在した場合、さらに酸素安定同位体比による評価や糖組成分析を組み合わせる事で、誤判定を防止しています。 この検証手順こそ、安定同位体比による判別における判別精度管理において非常に重要なものとなります。 (この確認検証手順は、炭素安定同位体比が-24‰を上回る場合に実施されます)

国産判別・・炭素・酸素安定同位体比による判別

原産国判別は、リンゴ果汁で97%

炭素安定同位体比
同位体研究所においては、産地判別技術開発の過程で、さまざまな農産物や林産物、水畜産物の安定同位体比研究を行ってきました。 既に分析を実施した検体数は、10,000を軽く越え、その対象は、農産物、果実、畜産物、水産物、林産物とその分野も多岐にわたります。また国内各地の産物、環境水など、基礎的安定同位体比蓄積に膨大な時間を費やして参りました。 果汁の産地判別検査は、他の作物の産地判別検査と同様、炭素・酸素安定同位体比の分析により可能です。 リンゴ濃縮果汁を例にすると次のように国産と輸入果汁の判別が可能となります。 リンゴ果汁の糖の炭素・酸素安定同位体比は、リンゴ生育地の炭素及び酸素安定同位体比を示します。 炭素は、リンゴ生育時の光合成によりその炭素安定同位体比が特徴付けられ、酸素安定同位体比は、リンゴ生育地の水(環境水)の酸素安定同位体比を示します。 果汁に含まれる水は、分析行程において除去されますから、分析対象は、リンゴ果汁の糖の安定同位体比となります。 図に示されるように国産リンゴ果汁は、輸入果汁とことなり炭素・酸素安定同位体比に特徴が示されます。そしてその値は、同位体研究所が保有する各産地の他の農産物の同位体比と比較しても妥当な値を示しています。 この安定同位体比データを多変量解析(判別分析)する事により高い精度で検査対象の検体が国産か輸入かを判別する事ができます(リンゴ果汁において97%です。 この97%とは、国産リンゴを判別分析により国産と正確に判別する精度と、輸入リンゴ果汁を輸入であると判別する精度を総合したものです。) 同位体研究所は、さらに研究開発を進めており、ストレート果汁・果実において、国内の生産地域の判別を可能としました。 国内産地判別においては、すでにそばや小麦において長野、北海道などの地域判別を可能としていますが、果実においても、この判別を可能としました。 リンゴについては、国内主力産地の判別が可能である他、みかんについての判別についても目処をつけました。 国内産地の判別においては、判別の指標としては、果汁の糖の炭素・酸素安定同位体比に加えて、果汁の酸素・水素安定同位体比を追加します。 果汁中の糖の分析と異なり、果汁の酸素・水素安定同位体比の分析においては、これらの2元素の安定同位体比は、空気中の水分、二酸化炭素と容易に安定同位体の置換が発生する為、分析検査は特に注意が必要です。このためサンプルの前処理をはじめ測定において、同位体置換による検査値の異常が発生しないよう手順に留意するほか、十分な反復測定と妥当性検証が必要となります。 同位体研究所においては、既に1000を越える果実・ストレート果汁検体の研究分析に取り組む事により、果汁分析への習熟とデータの妥当性検証を行っています。 そして安定同位体比のデータベースの信頼性の向上の為に、日本全国での表層水の採取及び測定に取り組むなど、基礎データの拡充を急ピッチで進めています。

果汁判別用基礎データの蓄積。 果汁(濃縮・ストレート)に加えてリンゴ・ミカン等の果実のデータを追加。 総数500を越える国産果汁検体データ(最終的に、1,000超)。 膨大な産地別データが支える判別能力

安定同位体比を用いた産地判別は、検体中の炭素や酸素などの安定同位体比を測定し、この測定値と、産地素性の明確な標準用のサンプルの蓄積データとの照合(統計解析による判別分析)により行われます。 国産と輸入果汁や果実を判別する事は、ある意味容易です。 これは日本という海洋に囲まれた島国、かつ気候も温暖で、水に恵まれるという特徴があり、海外大きく異なる気候風土である為、当然果汁・果実の安定同位体比の違いは、国産同士の比較差よりも大きく異なります。 同位体研究所において国産・輸入判別には総数で250の判別データを基礎としていますが、国内の産地の特徴を把握することは、輸入・国産判別のように容易ではありません。 国内産地の判別のための基礎的な研究段階で検体数は数百を超え、かつ同一地域で生産される他の農産物データとの対比評価や、産地の環境水の検討など、その判別の為の関連データは膨大なものとなります。 国内の産地の判別の為には、研究分析の中から、国産果汁検体としてすでに500検体を基礎データに使用。 さらにデータ検証と蓄積を進め、主要果実の基礎データは、総数1,000を越えるものとなります。 同位体研究所は、自社社員による標準サンプル品の全国規模の収集を行い、その安定同位体比の調査・研究を進め、より高精度の地域判別技術の開発に努めています。

国産・輸入判別検査や果汁異性化糖の添加判別・水添加判別検査において、表示と異なる産地と判別されたり、糖・水の添加があると判別された場合の対応

この場合の対応の留意点を下記します。
AIJN規格にて異性化糖混入有りと判別された
リンゴ果汁の場合、中国産にAIJN規格(-27‰〜-24‰)外のリンゴが存在します。(-23‰程度) この場合、炭素安定同位体比のみによる判定かどうか確認が必要です。 炭素安定同位体比のみによる判定の場合、中国産リンゴ果汁は誤って異性化糖混入有りと判断される可能性があります。 この場合、酸素安定同位体比や糖組成などの実施による確認をすれば大丈夫です。
水添加の可能性が指摘された。
IRMSによる検査に加えて果汁水分についての酸素・水素安定同位体比分析を行えば確認できます。