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統計解析(判別分析)の解説 | 産地判別検査の同位体研究所

統計解析(判別分析)の解説

組織に組み込まれた産地の化学的指紋・・安定同位体比

植物や動物の組織を構成する元素である炭素や窒素、酸素には、同じ元素でありながら、わずかながら重さ(質量)の違うものが存在します。 これを「同位体」と言います。 右の図は、日本の地域別の水を構成する重い酸素と軽い酸素の割合・・「酸素安定同位体比」を示したものです。 一口に水といっても全国で軽い水と重い水の割合が地域毎に異なる事を示しています。 そして、酸素以外でも、植物や動物の組織に取り込まれた炭素や窒素もさまざまな要因で軽いものと重いものの割合が地域により異なります。つまり、動物や植物は、育った地域の「同位体比」を組織中に指紋のように残しているのです。 そこで、植物や、動物の組織中の炭素、窒素、酸素の同位体比を調べれば、生育した地域が分かります。 例えば右の図にある長野では、水の酸素安定同位体比は、-10から-13‰程度を示します。 一方、関東や関西の平野部は、-5から8‰程度を示します。長野で育った米の酸素安定同位体比を調べると、長野の水の酸素安定同位体比を反映して、関東や関西の平野で生育した米とは異なり、低い酸素安定同位体比値である事がわかります。 安定同位体比、つまり炭素、窒素、酸素の質量を高精度で測定する事で、どのような地域や環境で育ったか、生育の地域履歴がわかります。 この生育地で異なる安定同位体比を利用して、産地を判別する技術が、「安定同位体比による産地判別」です。
地表水・表層地下水の酸素安定同位体比

安定同位体比データベースによる判別例

右図は、鳴門わかめとその他の地域産わかめの安定同位体比のちらばりを示したものです。 鳴門産わかめと、その他の地域産わかめの安定同位体比の分布は大きく異なる事が示されます。 これはわかめの生育環境の違いによる安定同位体比の違いがわかめ組織の元素に反映されているものです。 このように安定同位体比を用いて、さまざまな食品の産地を判別する事が可能となりますが、ひとつ問題があります。 あるわかめの安定同位体比を分析しただけでは、そのわかめの産地がどこであるのかを判別する事はできません。 鳴門わかめとその他の地域のわかめが、どのような安定同位体比をもつのかが事前に分かっている事が必要です。 つまり、安定同位体比値を用いて食品の産地を判別する場合、産地別の安定同位体比データベースが必要となります。 同位体研究所の設立以来、最も力を注いできたのが、全国規模の農産、畜産、水産物のサンプル収集と安定同位体比データベースの作成です。全国各地のみならず、海外へも自社社員を派遣し、産地で直接サンプルを収集しています。 現在では、60,000件に及ぶ国産・輸入食品データが蓄積され、うなぎ、米、牛肉、豚肉、鶏肉、果実、わかめ、タケノコ、シイタケ、そばや小麦、はちみつなど多くの分野で産地判別検査を実用化しました。 また国産・輸入の判別だけでなく、国内産地の判別やブランド牛肉の判別まで、分析検査範囲を拡大しています。
鳴門わかめとその他の地域産わかめの安定同位体比

判別分析・・事前にグループでデータが異なる場合、不明のデータがどのグループに入るかを統計的に判別する手法

安定同位体比が食品の産地により異なる値を示す事を利用して、食品中の安定同位体比を分析し、産地を判別する為には、統計解析の判別分析という手法を使います。 あらかじめ由来が明確な食品の安定同位体比を分析してデータベースを作ります。 そのデータベースから、グループを分ける・・判別する関数を算出します。そして、この関数を使い、検査対象の食品の安定同位体比データから得られた数値を元に、そのサンプルがどの産地グループに入るかを判別します。
判別式により得られた値でグループを決定する図

産地判別の精度・・異なる地域環境ほど明確に判別

産地判別の制度
判別分析という統計解析で産地を判別する場合、産地毎の安定同位体比データが、重なり合わずに明瞭に分かれているほど、判別の精度が高くなる、つまり誤判別の確率が小さくなります。 地域により環境が類似している場合や異なる地域でも安定同位体比値が近似している場合、例えばA産地とB産地と判別関数で区分した場合に、重なり合う部分では誤判別の可能性が生じます。 左図のように、A産地とB産地は安定同位体比値を判別式に入れて計算した判別点から二つの産地として数値により判別できる事を示しています。分析値を判別関数に代入して得られた数値を判別点といい、この数値と判別基準の値との比較により産地を判別します。多くの場合、判別の基準点は0で、判別点がプラスかマイナスかにより所属する産地グループを分ける事が一般的です。

判別の精度を上げる為に、最適な産地グループ分けを実施

産地判別で判別精度が例えば95%とある場合、A産地とB産地を95%は正しく判別できますが、データから得られた判別点が二つの産地の境界(判別基準)付近で重なり合う部分が全体の5%有り、この部分は、誤判別の可能性が生じます。 この場合、判別の的中率(精度)は95%となります。判別の精度を高める為には、判別をしようとする産地グループの安定同位体比値が重なり合うものが少ないほど、つまり地域環境の相違が大きく、安定同位体比値の差が明瞭となるほど判別の精度は高まります。 例えばタケノコを例にとると、京都産のタケノコの安定同位体比値は、中国とは明瞭に異なります。 しかし、九州産のタケノコは、中国と生育環境(緯度や生育地域の環境)が似ている為、安定同位体比値もより似通った値となります。 この為、判別を行う場合でも、九州・京都をひとまとめで国産-中国産と判別するよりも、京都と中国で判別した方が精度が高くなります。(右図のように、京都産と中国産は、より明瞭に判別されるので、由来が具体的であるほど、判別精度が高い事が示されます。
産地判別の制度
産地判別の制度
このように、判別の精度を高くする為には、判別するグループの選択が重要です。 従って解析では、一度に複数の産地を判別するのではなく、A産地とB産地グループ分けをし、次にさらに産地を分けるというように段階的に判別する方法をとります。 わかめの例では、まず鳴門産と鳴門産以外の産地のわかめを判別します。次に、鳴門産でないと判別されたわかめを対象として、三陸産(外湾)か輸入わかめか、というように、産地データベースのグループ分けを多段階解析する事で、精度の高い判別を行います。 同位体研究所の提供する検査では、判別用データベースに使う産地の明確なサンプル数は、最低100以上、統計的判別分析で、判別した正答率(判別精度)は、90%以上というように、検査実施上の基準を設定しています。 実際の産地判別検査では、わかめの場合、わかめの判別用データ数は、900と膨大な数です。 大半のデータベースは数百単位のデータで構成され、同位体研究所の保有の産地の安定同位体比データ総数は、現在50,000件に及びます。 同位体研究所は、自社で全国の農場、海岸を回りGPSデータで地理情報を確認の上、各種産物のサンプル収集を実施しています。 地道なサンプル収集による膨大なデータベース、高度な分析技術と統計解析が一体となって、高精度の産地判別検査を可能とします。